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神戸地方裁判所 平成10年(行ウ)22号 判決 2000年7月11日

原告 東洋テクノ株式会社

被告 兵庫県知事

代理人 谷岡賀美 杉田善紀 野口成一 岡田淑子 岡野計明 ほか6名

主文

一  原告の、被告が平成一〇年六月四日に原告の産業廃棄物処理及び清掃に関する法律一五条一項に基づく産業廃棄物処理施設設置許可申請に対してした受理拒否処分の取消しを求める訴え(主位的請求に係る訴え)を却下する。

二  原告の予備的請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主位的請求

被告が、平成一〇年六月四日、原告の産業廃棄物処理及び清掃に関する法律一五条一項に基づく産業廃棄物処理施設設置許可申請に対してした受理拒否処分を取り消す。

二  予備的請求

被告が、平成一〇年六月四日被告に到達した原告の産業廃棄物処理及び清掃に関する法律一五条一項に基づく産業廃棄物処理施設設置許可申請に対し、何ら許否の処分をしないことが違法であることを確認する。

第二事案の概要

一  当事者の主張

1  原告の主張

(一) 原告は、産業廃棄物の収集、運搬、処理等を目的とする会社である。

(二)(1) 原告は、産業廃棄物処理施設の設置に向けて、被告の行政指導に従うよう努力していたものであるが、平成一〇年六月四日、被告に対し、兵庫県竜野保健所(以下「竜野保健所」という。)において、これ以上被告の行政指導に従う意思がない旨の真摯かつ明確な意思を表明して、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)一五条一項に基づき、次の<1>ないし<3>記載の内容の産業廃棄物処理施設設置許可申請書(<証拠略>。以下「本件申請書」という。)を提出し、本件申請書は、同日、被告に到達した。

<1> 施設の種類 焼却施設

<2> 処理する産業廃棄物の種類

廃プラスチック類、汚でい、廃油、かみくず、木くず、繊維くず、ゴムくず、金属くず、ガラス及び陶磁器くず、動植物性残渣、感染性廃棄物

<3> 設置場所 兵庫県赤穂郡上郡町岩木字タンノモト甲八〇番地

しかるに、被告(委任を受けた竜野保健所長)は、同日、原告の右産業廃棄物処理施設設置許可申請に対し、「産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防と調整に関する条例」(平成元年兵庫県条例第九号。以下「産業廃棄物条例」という。)に定める手続が未了であるとの理由で受理拒否処分をした。

(2) 右同日の経緯の詳細は以下のとおりである。

原告は、竜野保健所において、同保健所の副所長藤井基彰(以下「藤井副所長」という。)、公害課課長補佐西岡信行(以下「西岡補佐」という。)に対し、本件申請書三部と写し(控え)一部の計四部を提示し、許可申請をするので受理してもらいたい旨申し入れ、受理できないのであれば、その理由を記載した書面をもらいたい旨申し入れた。原告は、当日申請手続が正式にあったことの事実証明書を作成してくれるようにとの申入れもしたが、それに対する明確な回答はなかった。

原告の申請に対し、藤井副所長は「この申請書は受理できない。」と言明し、その理由を「条例の手続が終了していないから。」と発言した。原告は、藤井副所長に対し、「本日、許可申請の手続をしたが、条例手続が完了していないということで、申請書の受理を拒否した」との事実を再確認したうえで、「申請を拒否した理由書」を後日原告宛に送付するよう要請した。

(三) 廃棄物処理法は、同法一五条一項に定める産業廃棄物処理施設設置許可の申請について、同条二項所定の事項を記載した申請書を提出しなければならない旨規定するのみで、申請書の受理については何ら要件を規定していないのであるから、原告の申請が真摯なもので明確に被告の許否の応答を求めているものである以上、当然、申請を受理すべきである。

また、行政手続法は、行政指導に携わる者は、申請者が当該行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず当該行政指導を継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはならず(三三条)、行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない旨規定している(七条)。

したがって、被告の原告に対する右受理拒否処分は、廃棄物処理法及び行政手続法に反し、違法である。

(四) 仮に、被告が原告の産業廃棄物処理施設設置許可申請に対して受理拒否処分をしていないとしても、被告は、行政手続法七条に基づき、右申請に対し許否の応答をすべき義務を負うものであるから、被告が原告の右申請に対し現在に至るまで何ら許否の処分をしないことは、行政手続法七条に反し、違法である。

2  被告の主張

(一) 本件の事実の経緯

本件の事実の経緯は、以下のとおりである。

(1) 原告の計画している産業廃棄物処理施設の設置については、平成九年五月六日、竜野保健所に対し、同施設の設置に伴って生活環境に著しい影響を受けると認められる者(以下「関係住民」という。)一二八名の署名が付された、同施設の設置に反対する旨の意見書(産業廃棄物条例一一条)五通が提出され、同月一二日までに総計一三四通の意見書が提出された。

(2) 同月三〇日、竜野保健所職員は、原告から産業廃棄物条例一二条に規定される説明会等実施状況報告書の提出について相談を受けた際、原告に対し、同報告書に添付することが義務付けられている関係住民の意見書に対する見解を記載した書類(同条例施行規則一二条三項二号)を添付するよう指導した。

(3) 原告は、平成一〇年三月一一日、産業廃棄物処理施設設置の許可申請書を提出したい旨申し出たが、この時点では説明会等実施状況報告書の添付書類が添付されていないか又は内容的に不十分であったため、被告が、産業廃棄物条例に基づく手続が終了してから提出するよう求めたところ、原告は許可申請書の提出を控えた。

(4) 原告は、同年五月八日、説明会等実施状況報告書を竜野保健所に提出したが、その添付書類である関係住民の意見書に対する見解書及びその見解を関係住民に周知した旨の文書の内容に不十分な点があった。

(5) 原告は、同月二七日、再度、許可申請書を提出したい旨申し出たが、被告が、前同様、産業廃棄物条例に基づく手続が終了してから提出するよう求めたところ、原告は許可申請書の提出を控えた。

(6) 原告は、同年六月四日、竜野保健所において、三たび、許可申請書(本件申請書)を提出したい旨申し出たが、被告が、これまで同様、産業廃棄物条例に基づく手続が終了してから提出するよう求めたところ、原告は、被告に対し、現段階でも許可申請書を提出すべきでないとする理由を記載した書面を交付するよう要求したが、本件申請書を提示、提出することはしなかった。

(7) 被告は、同月一一日、原告に対し、原告が同年五月八日に提出した説明会等実施状況報告書の内容審査の一環として、産業廃棄物条例の手続状況について事情聴取を求めたところ、原告はこれに応じた。

(二) 本案前の主張

(1) 右(一)記載のとおりの経緯であって、原告は、平成一〇年六月四日、竜野保健所において、産業廃棄物処理施設設置の許可申請を行いたい旨申し出たが、同保健所職員が、産業廃棄物条例の趣旨を説明した上、許可申請書の提出は産業廃棄物条例に定められた手続の終了後に行うよう求めたところ、原告はこれに応じて右申出を撤回し、本件申請書の提出はもとより提示も行わなかったから、本件申請書は被告に到達していない。したがって、被告は、原告の許可申請に対する受理拒否処分を行っていない。

藤井副所長が「この申請書は受理できない」と発言し、「条例の手続が終了していないから」と発言したことはあるが、それは、これまでの行政指導を踏まえて申請書の提出時期について一般的に簡潔に述べたにすぎず、提示すらされなかった申請書の受理拒否を目的とした発言ではない。当日の応対の終了後、同保健所内に原告が置いて帰った物は何もなかった。

よって、原告の主位的請求に係る訴えは、取り消されるべき処分(受理拒否処分)が存在しないから、訴訟要件を欠き不適法である。

(2) また、行政手続法七条は、「受理」の概念を排斥し、申請の到達による行政庁の審査、応答義務を規定したのであるから、申請の「受理」は、事務処理手続上の行為にすぎず、処分とはいえないものであり、受理拒否という処分は行政手続法上観念し得ないものである。

よって、原告の主位的請求に係る訴えは、この点でも不適法である。

(三) 本案の主張

(1) 仮に主位的請求に係る訴えが適法であるとしても、受理拒否処分が存在しない以上、同請求は理由がない。

なお、被告は、産業廃棄物処理施設設置を巡る事業者と地域住民との間の紛争の予防と調整を図り、地域における健全な生活環境の維持及び向上に資することを目的とする産業廃棄物条例の趣旨に則り、原告に対し、右条例の手続を許可申請に優先させるよう指導したものであり、右指導は何ら違法ではない。

また、原告は、平成一〇年六月四日以降も被告の行政指導に応じていることから、同日の時点で、これ以上被告の行政指導に従う意思がない旨の真摯かつ明白な意思を表明していたとはいえない。

(2) 被告が原告に対し、現在までに廃棄物処理法一五条一項の申請に関する許否の処分を行っていないことは認めるが、原告は、平成一〇年六月四日、本件申請書の提出も提示もしておらず、本件申請書は被告に到達したとはいえないから、被告は、原告に対する許否の処分を行うべき義務を負わないものである。

したがって、原告の予備的請求も理由がない。

二  争点

1  原告主張の被告による受理拒否処分の存否

2  被告に対する本件申請書到達の有無

第三争点に対する判断

一  争点1(原告主張の被告による受理拒否処分の存否)について

1  行政手続法七条は、「行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず、かつ、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていること、申請をすることができる期間内にされたものであることその他の法令に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については、速やかに、申請をした者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め、又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。」と規定し、申請が行政庁に到達すれば、行政庁は申請に対する審査、応答をしなければならないことを明らかにしている。右規定は、従前、申請が行政庁に到達したにもかかわらず、行政庁がこれを受理しない取扱いをした上で申請の取下げを求めるなどの行政指導を行い、あるいは処理を遅延させるということがあったことにかんがみ、かかる不適切な運用を改善し、申請に対する迅速、的確な処理の確保を図るために設けられたものであり、右規定の趣旨からすると、申請に対する行政庁の審査、応答義務は申請の到達という事実によって発生し、その間に行政庁の「受理」又は「受理拒否」、すなわち申請を有効なものとして受け取り又は受け取らない行為が介在する余地はないと解すべきである。

したがって、同法の下では、行政庁の「受理拒否処分」という処分も観念し得ないものというべきである。

2  そうすると、原告主張の廃棄物処理法一五条一項に基づく産業廃棄物処理施設設置許可申請に対する被告の「受理拒否処分」なるものは存在するとは認められないから、その取消しを求める主位的請求に係る訴えは不適法といわなければならない。

二  争点2(被告に対する本件申請書到達の有無)について

1  <証拠略>によれば、次の事実が認められる。

(一)(1) 原告は、産業廃棄物の収集、運搬、処理等を目的とする株式会社であるが、平成七年ころ、太子工業株式会社の事業を引き継いで、産業廃棄物処理施設を兵庫県赤穂郡上郡町岩木字タンノモト甲八〇番地に設置することを計画し、同年八月に事業計画事前協議書を竜野保健所に提出した。同年一一月一四日、竜野保健所長から兵庫県赤穂郡上郡町長宛に意見照会を行い、同月二二日、同町長から同保健所長宛に回答が送付された。

また、原告は、関係住民で組織される自治会との協議を開始した。

(2) 原告は、平成八年三月五日に産業廃棄物条例六条に規定される事業計画書を、平成九年三月三日に同条例七条に規定される周知計画書を、それぞれ竜野保健所に提出した(なお、同月二八日に周知計画変更届を提出した。)。

(3) 平成九年五月六日、関係住民一二八名の署名が付された、原告の産業廃棄物処理施設設置に反対する旨の意見書五通が竜野保健所に提出され、同月一二日までに総計一三四通の意見書が提出された。関係住民は、特に、原告が産業廃棄物処理施設の設置を計画している場所の地形が窪地になっているため、施設から排出されるダイオキシンを含む煙が滞留しやすいと考えられるのに、右地形や気象条件に即したダイオキシンの拡散状況に関するデータがないことを問題にしていた。

(4) 平成九年五月三〇日、同年七月七日及び同年八月二七日の三度にわたって、原告代表者は、産業廃棄物条例一二条に規定される説明会等実施状況報告書を竜野保健所に持参して提出しようとしたが、同保健所職員から、関係住民との合意形成が必要である旨の見解が示されたため、右報告書の提出をしなかった。結局、原告は、平成一〇年五月八日、竜野保健所に説明会等実施状況報告書を提出したが、添付書類である関係住民の意見書に対する見解書及びその見解を関係住民に周知した旨の文書の内容に不十分な点があった。

(5) 平成一〇年三月一一日及び同年五月二七日、原告代表者、原告訴訟代理人大石和昭弁護士(以下「大石弁護士」という。)及び原告の技術部長杉岡鐵夫は、いずれも、廃棄物処理法一五条一項に基づく産業廃棄物処理施設設置の許可申請をするため、竜野保健所に申請書を持参して提出しようとしたが、同保健所職員が、産業廃棄物条例に基づく手続が終了してから提出するよう求めたところ、原告代表者らは許可申請書の提出をしなかった。

(二)(1) 平成一〇年六月四日午前一〇時ころ、原告代表者は、大石弁護士、原告代表者の妻及び杉岡鐵夫とともに、産業廃棄物処理施設設置の許可申請をするため、本件申請書三部及び申請書の写し一部を持参して竜野保健所を訪れ、藤井副所長及び西岡補佐と面談した。

(2) 原告代表者らは、テーブルとソファーのある部屋において、幅(奥行)約一メートルのテーブルを挟んで藤井副所長及び西岡補佐と向かい合うように着席した。テーブルの中央に大石弁護士が藤井副所長と対面して座り、原告代表者は大石弁護士の右隣に座っていた。原告代表者は、所携の鞄の中から水色のA四判ファイルに編綴された厚さ約三センチメートルの本件申請書三部及びその写し一部の計四部を取り出し、大石弁護士の前の、テーブル中央部よりやや原告代表者らの側に近い位置に重ねて置いた。

(3) 大石弁護士は、藤井副所長及び西岡補佐に対し、「原告側は三年間(産業廃棄物処理施設の設置に向けて)努力しており、期待に応えられるような資料を出しているので、本日、申請書三部と控えを持って来たので受け取っていただきたい。受け取れないということであれば申請書を置いて帰るので、遅くとも同月一一日までに受理か不受理かの返事を書面でしていただきたい。」旨申し入れた。

藤井副所長は、申請書を置いて帰るというのであれば、期限を確約することはできないが、文書で回答する旨述べた。

大石弁護士は、申請があったという事実の証明を出せないかどうか尋ねたが、西岡補佐は、そのような事実の証明については行政手続法に何も規定していない旨答えた。

そこで、大石弁護士が、重ねて受理・不受理の返事を速やかにしてくれるよう求めたのに対し、藤井副所長は、「条例の手続が終了していないので、この申請書は受理できない。」旨述べた。

(4) 原告代表者らと藤井副所長及び西岡補佐との間で行われた右面談において、原告代表者らは、本件申請書又はその写しを藤井副所長や西岡補佐に手渡したり、差し出したり、ファイルを開けて内容を示したりすることはせず、藤井副所長及び西岡補佐も、本件申請書又はその写しを手に取ったり、ファイルを開けてその内容に目を通したりしたことはなかった。

原告代表者は、藤井副所長及び西岡補佐との面談が終了した後、本件申請書三部及びその写し一部を所携の鞄に戻し入れ、すべて持ち帰った。

(三) 原告は、平成一〇年六月四日以降も、産業廃棄物条例の手続について被告との協議に応じ、地元住民との話合いや焼却施設から発生するダイオキシン等の数値に関する資料の提出等について、被告の指導に応じる旨述べていた。

被告は、原告に対し、同月一五日付で「産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防と調整に関する条例及び廃棄物の処理及び清掃に関する法律に関する指導について」と題する書面を送付し、その中で、設置予定施設の安全性に関する事項(予定地周辺の地形、排ガスの拡散を考慮した上での事業予定地としての適性、排ガス処理施設の安全性、ダイオキシン類の排出濃度の根拠、もえがら、ばいじんの処理方法等)及び事業者の事業に対する姿勢について、原告の見解及びその関係住民への周知が不十分であることを指摘した上、<1>関係住民からの意見に対して十分な見解を作成し、その見解を関係住民に十分周知させること、<2>産業廃棄物処理施設の設置に当たり、周辺の生活環境への影響に対する配慮や関係住民との良好な関係の維持等に努めること、<3>右<1>及び<2>を踏まえて、再度、産業廃棄物条例一二条に基づく説明会等実施状況報告書を提出することの三点について指導を行った。

(四) 原告は、同月一六日、本件訴訟を提起した。

2  右1認定の事実に基づき判断する。

(一) 前記一説示のとおり、申請に対する行政庁の審査、応答義務は、申請の到達によって発生するものであるところ、「到達」とは、意思表示が相手方の了知し得る支配範囲に入ることをいうものと解される。そして、廃棄物処理法一五条二項によれば、同条一項に基づく許可を受けようとする者は、同条二項所定の事項を記載した申請書を提出しなければならない旨規定されているから、申請書が行政庁の了知し得る支配範囲に入ったときに、申請の「到達」があったと解すべきである。

(二) 原告は、平成一〇年六月四日、被告に対し、竜野保健所において本件申請書を提出し、本件申請書は同日被告に到達したとし、原告は、竜野保健所において、同保健所の藤井副所長、西岡補佐に対し、本件申請書三部と写し(控え)一部の計四部を提示し、許可申請をするので受理してもらいたい旨申し入れ、受理できないのであれば、その理由を記載した書面をもらいたい旨申し入れたのに対し、藤井副所長は、「この申請書は受理できない。」と言明し、その理由を「条例の手続が終了していないから。」と発言した旨主張する。

しかし、前記1(二)認定の事実によれば、同日、大石弁護士、原告代表者の妻及び技術部長杉田鐵夫は、幅(奥行)約一メートルのテーブルを挟んで藤井副所長及び西岡補佐と向かい合うように着席し、テーブルの中央に藤井副所長と対面して座った大石弁護士の右隣に座った原告代表者は、所携の鞄の中から水色のA四判ファイルに編綴された厚さ約三センチメートルの本件申請書三部及びその写し一部の計四部を取り出し、大石弁護士の前の、テーブルの中央部よりやや原告代表者らの側に近い位置に重ねて置いたものの、それ以上、本件申請書又はその写しを藤井副所長や西岡補佐に手渡したり、差し出したり、ファイルを開けてその内容を示したりすることはせず、藤井副所長らも、本件申請書又はその写しを手に取ったり、ファイルを開けてその内容に目を通したりしたことはなく、同日の面談終了後、原告代表者は、本件申請書三部及びその写し一部を所携の鞄に戻し入れ、すべて持ち帰った、というのであるから、本件申請書は、未だ被告の了知し得る支配範囲に入ったとは認められず、被告に到達したとはいえない。

前記1(二)(3)認定の事実によれば、右面談の際、大石弁護士が、藤井副所長及び西岡補佐に対し、「本日、申請書三部と控えを持って来たので受け取っていただきたい。受け取れないということであれば申請書を置いて帰るので、遅くとも同月一一日までに受理か不受理かの返事を書面でいただきたい。」旨申し入れ、藤井副所長は、「条例の手続が終了していないので、この申請書は受理できない。」旨述べたことは認められるが、大石弁護士は「受け取れないということであれば申請書を置いて帰る」と言いながら、結局本件申請書を持ち帰ったのであり、藤井副所長の右発言は、前記認定の状況に照らせば、仮に現段階で申請書が提出されたとしても条例の手続が終了していないから受理できないとの趣旨と考えられるから、右のような応答がなされたからといって、本件申請書が現実に被告に到達したとは認められない。

3  以上のとおり、本件申請書による廃棄物処理法一五条一項に基づく原告の申請は被告に到達したとはいえないから、これに対する審査、応答義務は未だ発生していないといわなければならない。

したがって、被告が原告に対し何ら許否の処分をしていないことは違法とはいえないから、右違法確認を求める予備的請求は理由がない。

第四結論

よって、原告の主位的請求に係る訴えを却下し、予備的請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 水野武 田口直樹 武宮英子)

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